痙攣発作後の乳酸値フォローアップはいつ行う?

【背景】

救急外来に痙攣発作を疑う患者さんが搬送されてきました。

血液ガスでpH 7.22乳酸値 8.2mmol/Lでした。

上司が、「2時間後に、血液ガスを再検しようか」、と言っていました。

なぜ???

 

【疑問】

痙攣発作における乳酸値上昇はどれぐらいで改善するか?

 

【答え】

2時間後のフォローアップではまだ早いかもしれない

 

【説明】

①なぜ乳酸値が上昇する

②文献検索をしてみる

③まとめてみる

 の順で進めていきます。

 

①なぜ乳酸値が上昇する

痙攣は激しい筋肉の収縮を伴うが、その際に痙攣に伴う呼吸停止や酸素供給を超える激しい筋収縮に伴い、嫌気的な代謝が行われる。その結果、グルコースミトコンドリアのTCA回路を介した好気的な代謝ではなく、嫌気的な代謝の産物である乳酸へと変化していく。

その結果、痙攣後には血中の乳酸値が上昇する、とされている。

痙攣の評価として、血液ガス測定による乳酸値評価は、主に救急現場をはじめとする臨床現場ではよく行われている。

 

確かに、初期研修の時分からそう習ったし、それを行ってきたが・・・。

その意義と評価方法を文献的に検索して考えた記憶はない。

医療あるあるの「教科書+耳学問」で済ませていたような気がする。

また、感覚的に「2時間で回復するよな」という印象はあるがその根拠を考えたことはなかった。

 

②文献検索をしてみる

ということで、まずは痙攣発作と乳酸測定の意義を調べてみると、下の文献①がよい該当の論文と思われる。

文献①:The Use of Lactate Levels to Distinguish Grand Mal Seizures From Syncope in Patients Presenting With Loss of Consciousness: Annals of Emergency Medicine, 2012.

 元論文PDFはこちら☞

https://www.annemergmed.com/action/showPdf?pii=S0196-0644%2812%2901103-1

この論文のポイントを3つに絞ると、

3.5mmol/L以上であればより可能性が高い。

  と言えそうです。

 

では、本題の何時間後の血液ガス検査フォローアップがよいのか、を調べていくと文献②もよさそうです。

文献②:Acute metabolic effects of tonic‐clonic seizures: Epilepsia Open, 2019.

  元論文PDFはこちら☞

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6885665/pdf/EPI4-4-0.pdf

” data-en-clipboard=”true”>

” data-en-clipboard=”true”>・32人の患者、39の強直間代発作からサンプリング
・乳酸は強直間代性痙攣後、1時間では50%減少、2時間後にはベースラインレベルまで低下
・強直間代性痙攣の90%で乳酸の上昇で、2.5mmol/Lを超えるのが94.6%
アンモニアも強直間代性痙攣後、2時間後にはベースラインレベルまで低下
 
 n数が多いとまでは言えませんが、痙攣後の各マーカーの時間経過を示したデータが記載されているため、経過を考える上では非常に参考になります。
 ただ、カットオフラインを2.5mmol/Lと設定しており、実臨床で参考とする2.0mmol/Lよりも高めのラインで乳酸高値を判定されているようです。一方で、それだけのラインを設定しても、強直間代性痙攣発作では94.6%が乳酸値上昇を認めており、痙攣発作での乳酸高値の傾向を後押ししてくれる情報でもありそうです。
 論文の記事上では、2時間後には乳酸値はベースラインまで低下したと記載されてはいますが、上記の図を見ると2時間後でも平均値は2.5mmol/L程度であるため、経過観察時間を果たして2時間としてよいのかは悩ましいです。
 

他の文献記載はどうなっているでしょうか。

追加の文献③もよさそうです。

文献③:Lactate as a diagnostic marker in transient loss of consciousness: Seizure, 2016.

  元論文PDFはこちら☞

https://www.seizure-journal.com/action/showPdf?pii=S1059-1311%2816%2930077-2

” data-en-clipboard=”true”>

” data-en-clipboard=”true”>・強直間代痙攣発作における乳酸値上昇を2.45mmol/Lと定義すると88%に認めた
・強直間代痙攣発作の2時間後に採取された血液サンプルでは、乳酸値が2.5 mmol/Lを超える患者は16.7%だった

 となっております。

 2時間後で乳酸値が2.5 mmol/Lを超える患者が16.7%ということは、

 2時間後でも6人に1人は2.5mmol/Lを超えるようです。

 

③まとめてみる

3つの文献をまとめてみると

発症1.5時間以内では、失神より痙攣発作で乳酸値が上昇する

・痙攣発作では乳酸値上昇(≧2.5mmol/L)は約90%に認める

・2時間後ではベースラインに戻るとされているが、十分低下しているとも言い切れず文献によっては3時間で判定(文献①)している

 

 2時間後の評価ではまだ早い可能性があり、3時間誤判定でもよいかもしれない。

 しかし、もし痙攣発作以外の要因で乳酸値が上昇している場合、特にショックなどで生じている場合には、3時間待つのはあまり有効な対応とは言えないと思われる。

 よって、現実的には2時間以内で一度フォローアップし、正常値まで改善しない場合に3時間後のフォローアップをする方がよいと考えるのが、実臨床での対応ではないかと考える。

 

 僕自身も改めて調べてみて学びが大きかったです。

 救急外来での診療に参考にしていただけたら幸いです。


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